様々な種類の「恐怖」を小説ならではの技巧で追求した戦慄すべき名編たちを収める。わが国のアンソロジー文学史に画期をなす一冊。

『もっと厭な物語』のあと、もう少し厭な物語を読んでいたくてこちらをチョイス。今の気分にぴったりの厭なアンソロジーでした。もともと昭和44年に出版されたものの復刊ということで、暗くジメジメした昭和の空気がなんともいえないのです。もうそれだけで背中がぞくぞくする感じ。

編者の筒井康隆も解説で語っているのですが、子どもの出てくる話が多く、そして怖い。特に、結城昌治 「孤独なカラス」、曾野綾子「長く暗い冬」が本当に怖い。恐ろしく不気味で可哀想でどこにも救いがない。子どもの出てくる話が怖いのは、全く未知の得体の知れないものよりも、知っていると思っていたものが実は最も得体のしれないものだった、という怖さなのかなと思う。

とにかく粒ぞろいのアンソロジーでどれを読んでもハズレはないけど、特に印象に残ったのは上記の二作。そして、「くだんのはは」は震災後の今読んで改めてぞっとするし、「頭の中の昏い唄」は生理的に嫌なのに好き。