最悪の結末、不安な幕切れ、絶望の最終行。文豪・夏目漱石の不吉きわまりない掌編で幕を開ける「後味の悪い小説アンソロジー。人間の恐布を追究する実験がもたらした凄惨な事件を描くC・バーカー「恐怖の探究」、寝室に幽閉される女性が陥る狂気を抉り出すC・P・ギルマンの名作「黄色い壁紙」他全十編。

『厭な物語』の第二弾『もっと厭な物語』。前回の『厭な物語』はギャー!っと叫びたくなるような嫌さだったけど、今回のは黒板を引っ掻く音をエンドレスで聞かされるような嫌さ。

今回気に入ったのは、狂気を孕んだエドワード・ケアリー「私の仕事を邪魔する隣人たちに関する報告書」、シャーロット・バーキンズ・ギルマン「黄色い壁紙」、悪夢のようなアルフレッド・ノイズ「深夜急行」、オーメンのようなスタンリィ・エリン「ロバート」、心理サスペンス的な物語と思いきや後半一気に血みどろになるクライヴ・バーガー「恐怖の探究」。

そして解説も。作品そのものの解説だけでなく、その作者のほかの作品、それらが収録されているアンソロジー等が紹介されており、これが気に入ったら次にこれを読むといいよ的な解説なので 重宝すること間違いなし。積読本は増えそうですが…。

乙女の読書道

乙女の読書道

声優、歌手として活躍されている著者の初の読書エッセイ集。「本の雑誌」に連載中のブックレビュー「乙女の読書道」を中心に、「週刊プレイボーイ」で連載したコラムや読書日記を収録。巻末には父である池澤夏樹氏との父・娘対談も! 「私にとって読書は世界そのもの」と本への愛情がたっぷり詰まった1冊。

『乙女の読書道』というタイトル、文庫本を横に引き延ばしたようなサイズのソフトカバー、本がきっしりの半棚の前のキュートな池澤春菜さん。
なんとも魅力的な出で立ちの本!
なにやら可愛らしげな本の中身はというと、重度の活字の虫がSFについての愛を語りまくるブックガイド。
おまけにお父さま(池澤夏樹さん)まで登場するという、中身の濃ゆい一冊でした。

興味はあるものの、耳慣れない言葉に小難しいイメージを抱いてしまい、なかなか実際に読むに至らないSF。
書店でどうしようか迷っていたら、キュートな女の子が駆け寄ってきて熱烈おすすめしてくれる。
その情熱に若干腰が引け気味になりつつも、どっさり両手に山積みになった本たちをレジに…というような妄想を抱きながら読みました。
なにから読もうかなぁ。

マーチ博士の四人の息子 (ハヤカワ文庫HM)

マーチ博士の四人の息子 (ハヤカワ文庫HM)

医者のマーチ博士の広壮な館に住み込むメイドのジニーは、ある日大変な日記を発見した。書き手は生まれながらの殺人狂で、幼い頃から快楽のための殺人を繰り返してきたと告白していた。そして自分はマーチ博士の4人の息子―クラーク、ジャック、マーク、スターク―の中の一人であり、殺人の衝動は強まるばかりであると。『悪童日記』のアゴタ・クリストフが絶賛したフランスの新星オベールのトリッキーなデビュー作。

有隣堂で限定復刊されていたのを見て購入。
ストーリーは、殺人狂の日記と、それを見つけてしまったメイドのジニーの日記が交互に綴られる形式で進んでいく。
途中からは殺人狂がジニーに日記を見つけられたことに気が付くので、ジニーの命を懸けた緊迫感あるやり取りが描かれる。
なんとか次の殺人を食い止め、犯人を暴こうとするジニーと次々と殺人を犯し、ジニーをも手にかけようとする殺人狂。
どんどん緊迫感が高まり、先が気になりページをめくる手が止められなくなるほどだ。

殺人狂がだれか明らかにされるラストは、背中がぞっとするような気味悪さがある。
その正体に関してはやや肩透かしな感があるけれど、殺人狂の犯人候補者であるマーチ博士の四人の兄弟の存在感が薄いのはなるほどそういうことだったのかなとも思う。

すごく面白かったので、オベールのほかの本を読みたいけど、軒並み絶版っぽい…。

生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫)

生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫)

40代、独身。好きなもの、昼酒。座右の銘は「好奇心は身を滅ぼす」。“いいとこなし”に見えるけれど、なぜかおかしいキミコの日々。「結婚しないの?」と聞かれた時の答え方、圧力鍋との15年戦争、父のゴミ分別の不可解なルール、朝はなぜ眠いかについての考察など、日常の出来事に無駄な妄想で切り込んでいく。読んでも何の役にも立たないけれど、思わず笑いがこみあげて、不思議と元気が出てくるエッセイ集

予想の斜め上じゃなく斜め下を行くと言ったほうがよさそうなゆるエッセイ(褒めてる)。
あまりの脱力エピソードと無駄な妄想のオンパレードで思わず笑ってしまう。
40代、こんな感じに楽しく生きていいんだ!と気持ちが明るくなってくる。


一番笑ったのは、「人生を変えた偉人伝」。
これだけ見ると自己啓発本に出てきそうな章のタイトルなのに…(笑)。

だって好きなの、偉人伝。幼いころから好きで、おかげで「世の中には努力して頑張ってる人がこんなにいるのだから、私はそれほど頑張らなくていいや」という人生観を確立できた。これは今でもしっかりと根付いていて、「世の中には働いている人がこんなにたくさんいるのだから、私はビール飲んで寝ててもいいや」と昼下がりの回転寿司で思うと心がぐっと楽になる。偉人のおかげだろう。

最後の「偉人のおかげだろう」ってのがもう!!!(笑)

これを読んで、うちの坊が学校で伊能忠敬の伝記を読んで感想文を書かされた時のことを思い出した。
その感想文には「家業や村のための仕事が終わって、ようやく隠居ができるのに、日本中を歩いて測量したり地図を作るなどというしんどいことをやった伊能忠敬は変だ。そんな疲れることはせずに家でごろごろしていればいいのに。」と書いてあった…。
その感想文が担任の先生の逆鱗に触れたため個別面談で私が怒られ、たいそう落ち込んだのだが、その事件の前にこの本を読んでいたら、こういう子もいるんだから…って思えたかもしれないな。

被害者を捜せ! (創元推理文庫 (164‐2))

被害者を捜せ! (創元推理文庫 (164‐2))

第二次世界大戦下、異郷の地に駐屯するぼくら海兵隊員の唯一の楽しみは、故国からの新聞や雑誌を回し読みすること。そんなある日、新聞で、出征前に勤めていた〈家善協〉でぼくのボスが殺人を犯したのを知った。でも、記事がちぎれているので被害者がわからない。そこで、ぼくの話をもとに戦友仲間で被害者捜しをする運びに…。

『四人の女』を読んで大好きになったパット・マガーのデビュー作。


殺人事件も犯人も分かっているけど被害者がわからない、という状況の設定がやっぱり面白い。
そして登場人物の描き分けが絶妙。
何度も振り返って人物表を確認せずとも、頭の中には自然と〈家善協〉のメンバーの顔が浮かび上がる。
確かに『七人のおば』『四人の女』に比べると、ほとんど語られない人物がいたり冗長だったりする部分はあるのだが、やっぱりとても面白い。
ラストで届く、語り手ピートの女友達シーラからの、答えを明かす手紙が辛辣なのが、クスッとできてとても好き。


今刊行されているパット・マガーの5作品の内、読んでないのはもう『目撃者を捜せ』のみ。
もったいなくてしばらく読めない…。


余談ですが、最近の複雑で重いミステリーよりも、ちょっと古めの300ページくらいのミステリのほうが、私には合ってるかもと思う今日この頃。
ただ単に集中力がなくなってきただけかもしれないけど。